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Ⅰ-1-3 企業教育は「先行投資」の側面がある

Ⅰ-1-3 企業教育は「先行投資」の側面がある

牛田:「企業で働くために必要な能力は会社の責任で教育するべき、という考え方でいくと、企業側にとっては採用と教育にお金をかけてもその人が辞めてしまったら投資が無駄になりますよね。働く社員側からすると『その会社で活用できる能力=キャリア』って考え方に賛同を求められる形になるし、その企業で勤め続けるかどうかが大事になるでしょうからバランス感覚って大事ですよね」

 

長谷川: 「なかなか鋭いところをつくね。そうなんですよ。うちは少ないけど、『この会社で働いてもキャリアにならないし、他の会社で役に立つスキルが身につかない』と言って辞めちゃう若手や新入社員は結構いるみたいなんです」

 

牛田:「なるほど~結構シビアな人っているんですね!これは前向きなのか後ろ向きなのかわからないですね」

 

長谷川: 「個人的には、会社には3年はいないと身につくものも身につかないと思うんだけどね。またこの話は今度しましょう。で、例えば新入社員が一年で辞めたら企業は600万~800万位の支出になる、というデータがあります」

 

牛田:「え!そんなにかかります?!」

 

長谷川:「お給料だけじゃなくて採用広告費とか家賃とか事務所とか備品とか、教育に関わった人たちの人件費とかもあるからね。まあとにかくお金はかかるんですよ。しかも給料分以上の成果を出せるバリバリの一人前になるまでは支出が先行するよね」

 

牛田:「そうなんですね…。あー、そりゃ確かに新入社員研修で寝られたら腹立ちますよね。まだ会社に貢献してないくせに会社をなめんじゃねえ!ってなりますよね…」

 

長谷川:「まあ、なめんじゃねえ!って言ったら下手すりゃパワハラになっちゃうけどね。人を一人採用したらきちんと育てて、将来一人前としてバリバリ活躍してもらわなければならない。そのためには長い目で見た教育が必要だということ。そこには『投資』の考え方が大事だし、それが働く人と企業側の双方にとって有益でないといけない。これは新入社員研修だけじゃないんだよね。例えば管理職研修だって同じことが言えます。だからうちの会社は管理職に対しても同じく先行投資的な考え方で教育をしています。管理職になってから管理職の勉強をしても遅いからね」

 

牛田:「仕事に必要な教育を企業がするんだけど、企業側の都合だけ考えて短期的な教育をしちゃだめってことですね」

 

長谷川: 「短期的と言えば…。時々『駅前で絶叫研修』とか『社訓を絶叫研修』とか、テレビでたまにやってるでしょ」

 

牛田:「ああ、あの怖いやつ。うちではやってないと聞いて安心しました」

 

長谷川: 「あれね…、実は、短期的には本当に効果があるんだ…」

 

牛田:「そうなんですか…。ってその前に先輩の言い方が怖いですよ。あれは何でやるんだろうと不思議に思っていました」

 

長谷川: 「ああいう研修の分野を感受性訓練、センシティビティトレーニングといいます。一種の劇薬とかショック療法みたいな、人の考え方と行動に短期的に強烈な影響がある。昔は企業の通過儀礼として新入社員や管理職の研修として、結構な数の企業がやっていたんだ」

 

牛田:「そうなんですか。すごい時代だったんですね。」

 

長谷川: 「そのセンシティビティトレーニングなんだけど、今ではかなり減ってきてる。なんでだと思う?」

 

牛田:「そりゃブラックだし、厳しすぎて時代に合わないからじゃないですか?」

 

長谷川: 「ブーポン!半分正解です!」

 

牛田:(なんだそりゃ!)

 

長谷川: 「さっきも言ったけど、短期的には効果、意味はあると思う。私の見立てでは廃れた原因は三つある。一つ目。あれは終身雇用が前提であれば厳しくても受講生には耐える価値があったかもしれない。ああいう厳しい試練を乗り越えたんだからコミュニティの一員として認められるんだ、っていう意味でね。でも、その終身雇用が崩壊してしまった。受講生にすれば厳しい研修に耐える報酬が失われてしまったんだ。二つ目。あなたが言うように、あれは実はマインドコントロールの技法と一部が重複している。すなわち、情報の遮断、行動の統制と制限、時間のコントロールを通した感情のコントロールがないと成立しない。でも今はスマホがあるから情報を完全には遮断できないし、個人に配慮しないとパワハラやモラハラになる。これも時代の変化だね。そして最後に、あのやり方はかなり危険な側面も持っている。実は過去に精神的に追い詰められた自殺者が出ているなど、かなり問題があるんだよ」

 

牛田:    「そうなんですね…って、最後本当に怖い話じゃないですか!シャレで茶化してはいけない話ですね」

 

長谷川: 「実は研修技法や心理療法の背景は例えば武道や宗教の修行方法から取り入れたものが結構多い。最近はやりのものだとマインドフルネスの元ネタはヨガの瞑想だ。その中には荒行と呼ばれるものとか、細心の注意をしなければ危険なものもある、ってことです。マインドフルネスは危険はないだろうし問題はないですよ。私が言いたいのは、我々人事は研修の技法や手法をちゃんと理解して、それが何なのか、何らかの危険性はないのか、何のためにそれをやってどう役に立てるのか、企業研修として問題ないのかと、正しくやり方を見定める必要があるということです。短期的に効果があるからと言って劇薬とかショック療法みたいな倫理的に問題がありそうな手段を選んではいけないということです。」

 

牛田:「長期的に役に立つ、短期的な視点を追いかけすぎない、人道的に正しい、かつ効果が出ないと賛同を得られないし受講生が取り組んでくれない…。難しいんですね。」

 

長谷川: 「そうだね。働く人と企業の関係性ということを考えた場合に、もう一つ大切なことがある。例えばうちの娘がひらがなや算数ができるようになると親としては非常に感動してしまうんですよ。『うちの娘は天才だ!』『将来は数学博士だ!』って」

 

牛田:「写真見せていただきましたね。娘さん可愛いですもんね」

 

長谷川: 「でも、企業で仕事をするためには読み書きパソコンは前提としてできていて当たり前、みたいになっている。実は社員一人一人がここまで育ってくるためには色んな人達の色んな努力や苦労があってのことで、そういうかけがえのない人たちを預かっているんですよ。こういうことを企業もやっぱり忘れちゃいけないって、親になって、そして今年4月の新入社員の姿を見て本当に思ったんだよ。本当は新入社員の入社式の姿は晴れ舞台ですよ。親の気持ちを経験しちゃったら、少しでも暗い気持ちで仕事をしてほしくないよね。だからこそ、『働く人のことを大切にして、長い目できちんとした教育を考えるべきだ』という姿勢が企業側にはすごく求められる。その実現のためには、企業と働く人がお互いをきちんとリスペクトできる関係を作ることが大事になるよね」

 

牛田:「どこまでが企業教育の守備範囲でどこまでが義務教育や学校教育の守備範囲なのか、教育の役割論を追及していくと自然と中学校でどういう教育をしてほしくて、高校、大学では、とか家庭では…というようなすごく大きな話になっちゃうんですね。それこそ前回のテーマですね」

 

長谷川: 「そうですね。あまり突っ込み過ぎると前回の延長線の話になって、思想とか国家論みたいになっちゃうんだけど、基本の義務教育の成果が良いと企業は優秀な人材を採用できる、というのは事実でしょうね。

でも、それは企業努力の範囲外としておかないとかなりの無理があります。我々が『最近の若い者は』とか『学校がだらしないから』という種類の話をしてもただの愚痴にしかならないから仕方がない。まあ、どうしても時々言っちゃうけどね…」

 

牛田:「そして『学生の考え方が甘い』『採用する学生がうちと合うような考え方をしていない』『離職率が高くなってきた』からと言ってショック療法や劇薬は選べないんですね」

 

長谷川: 「そういうことです。少しまとめましょう。我々は基本軸として『仕事を行うために必要となる教育を行うのが企業教育だ』『企業の教育はある程度長期的な先行投資の側面がある』『教育方針も含めた人事戦略は企業の経営戦略に従う』そして『正しい倫理観を持って、手段と方向性を見定めてそれを実行しなければならない』というところを頭の中心に持っておくことが大切です。

まあ、そりゃいろんな部署から忙しいのにまた研修やるの?とか、今年の新入社員は何なんだ!もっと効果のある研修にしろ!とかいろいろ言われるから参るよ。だけどね、人事部教育研修課の仕事は会社の発展に大きく貢献できる大事な役割だし、働いている人の問題や悩みを解決したり、もっと活躍するためのきっかけづくりができる可能性を持っている。大変だけどやりがいもある仕事なんだよ」

 

ポイント!:人材育成は正しい倫理観を持って、手段と方向性を見定めてそれを実行しなければならない!

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