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【ハインリッヒの法則】

ハインリッヒの法則は、ハーバート・ウィリアム・ハインリッヒが論文の中で提唱した労働災害における経験則の名前である。
1つの重大事故の背後には29の重大事故につながりかねない軽微な事故があり、その背後には300のヒヤリ・ハット(危険を感知してヒヤリまたはハッとする事例)が存在するという。

上記の「1:29:300」の数字がとても有名だが、その数字や周辺状況の分析を受けてハインリッヒは

・人間の不安全行動と機械的物理的不安全状態が原因の災害のうち98%は予防可能である
・人間の不安全行動(88%)は、機械的物理的不安全状態(10%)の約9倍の頻度で出現している

といった分析と、「災害を防げば傷害はなくなる」「不安全行動と不安全状態をなくせば、災害も傷害もなくなる」といった教訓を説いている。

この法則を初めて発表した1929年当時、ハインリッヒはアメリカの損害保険会社にて技術・調査部の副部長をしていたが、数多くの著作やマニュアルに引用されるようになり「災害防止のグランドファーザー(祖父)」と呼ばれるようになった。
日本でも国鉄(現在のJR)は「330運動」と称される運動を行っていたという。

その後も労働災害や事故は発生し続け、その度にハインリッヒの法則に基づく、またはそもそも法則自体をメタ的に分析する検討が繰り返された。
その結果、現在ではハインリッヒの法則に対して

・論文が発表された当時のアメリカの労働者と経営側のパワーバランスの影響を受けて、ハインリッヒの法則が書かれた論文は労働者側の責任を問う論調が強い
・前提となるデータの分析や裏付け、因果関係の立証に不十分さがある

といった指摘をされるようになってきた。
また、その後も事例研究は行われ「バードの法則」「タイ=ピアソンの法則」といったものが出てきて保険料の算出基準などに影響を与えているという。

前提となったデータ分析に不十分さがあると指摘されてはいるが、ハインリッヒの法則は直観的な部分で「なるほど、予防って大事だ」と納得するような説得力を持っている。
現在でも畑村洋太郎氏が主宰する「失敗学会」をはじめ、「安全工学会」「日本人間工学会」といった権威のある学会の論文や研究発表でも取り上げられることが多く、それでハインリッヒの法則を初めて知ったという人も少なくない。

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